レポート

  討論授業成立へのステップ
                          山田洋一
(以下の論文はふろむA通信より転載したものです)


1,あこがれ
 実践記録を読んだり、授業ビデオを見て雷に打たれたような気分になったことがる。
 例えば、向山洋一氏の「春」の授業。
 有田和正氏の「バスの運転手さん」の授業。
 築地久子氏の授業。
 教授行為のすばらしさもさることながら、それによって鍛えられた子どもたちの力に驚いた。
 近くは、最近発売された向山洋一氏の「やまなし」のCD。
 討論する子どもたちに畏れさえ抱いた。
 教師が、ほとんど口を挟まず、延々子どもたちだけで討論が行われる。
 頭の中に討論授業のイメージはある。
 そして、討論授業をつくるためのそこそこの知識もあった。
 例えば、意見がまっぷたつに分かれるような発問。
 意見をノートに書かせる。
 意見分布をとり、人数を板書する。
『さあどうぞ』と言って意見を言わせると……
 果たして、討論は始まったか。
 始まるわけがないのである。

2,不勉強教師の罪
  教室には、いやな空気が流れた。
  だれも、手を挙げない。
  誰も発表を始めないのである。
  『ノートにはいいことが書いてあるんだからさあ』『ノートに書いてあることをただ読めばいいんだよ』
  これには、反応なし。
  『それじゃあ、先生が答えを言おう、それでいいんだね。先生が、答えを言って終わり。そんな授業
  でいいんだね』
  多少、挑発してみる。
  これには、いい子ちゃんが反応して、2人ほど意見を言うがそれ以外はうつむいたままであった。
  思い出すと背筋が寒くなる。
  子どもたちには、全く申し訳ないことをしたと思っている。
  それでも、私は、この2,3人だけが発表をする「討論」授業を続けていた。
  いい子ちゃんだけが活躍して、そのほかの子どもたちは、うつろな目で授業を受けていた。
  大多数の子どもたちに地獄の苦痛を味わわせていたことを、深く反省している。

3,討論授業を成立させるステップ(上達論)
  粗く言うと、討論授業を成立させるためには、2つの側面を意識しなければならな い。  
  一つは、子どもたちにどのように意見を持たせ、何を言わせるのかという、内容論である。
  もう一つは、意見をどう言わせ、議論をどうかみ合わせていくかという、組織論である。
  それら二つにそれぞれステップがあって、それを着実にクリアしていくことが、討論授業を成立させる
 道なのである。
  以下、それらを区別しながら論じていく。なお、最終的に目指すのは向山氏が提唱している指名なし
 討論である。

4,組織論@ 「指名なし」に慣れる
  石黒修氏は、指名なし討論へのステップとして次のような流れを提唱している。
───────────────────────────────────────
  指名なし音読→指名なし発表→指名なし討論
───────────────────────────────────────
  私には力がない。だから更にスモールステップで指導することにした。
───────────────────────────────────────
  これから日直の順番で教科書を読んでもらいます。
  読む量は一人一文です。小村さんが読んだら、次は能登君が立って読みます。
  日直の順に次々読んでいくのです。
───────────────────────────────────────
  私は、ここからスタートした。3巡目で、教材文を読み終わった。
 『さすが、5年生です。初めてなのにこんなに上手にできました』
  指示、作業のサイクルが終わったら、必ず褒めるようにした。もちろん、やる気を持続するためである。
  1週間ほど、この方法を繰り返した後、次の指示をだす。
───────────────────────────────────────
  今度は、前の人が半分くらい読み終わったな、と思ったら次の人は立って待っ
 ていましょう。リーチをかけるのです。
───────────────────────────────────────
 日直の順番に読むことができていれば、リーチをかけることはさほど難しくない。
 しかし、集中していなくて、うっかり立つのを忘れる子どもがでてくる。
 そこで、次のように時々声をかける。
───────────────────────────────────────
   リーチをしっかりとかけられる人は、集中力のある人です。
───────────────────────────────────────
 ここでぼーっとしている子を叱るという方法もある。
 しかし、その場合負の効果(?)も計算に入れておかなければならない。
 例えば、それは授業中の雰囲気が悪くなるということや、子どもが萎縮してしまってその後意見が出
 なくなるということである。
 これは、叱るなといっているのではなく、常にそういった計算をするべきだということである。
 
5,組織論A 「指名なしランダム音読」
 さて、続いて「指名なしランダム音読」の指導である。
『新しいことに挑戦してもらいます』と言って次のように指示する。
───────────────────────────────────────
 今度は、音読の時に誰から読んでもいいことにします。
 日直の順番にこだわらなくてもいいのです。
 読みたい人から、立って読んでもらいます。
 もしも、たくさんの人が同時に立ったら、発表回数の多い人が譲ってください。
───────────────────────────────────────
 子どもから「リーチはかけるのですか」と質問がでる。
 『いいことに気がついた!その通りです。勉強したことはドンドン使いましょう』。
 この場面では、いくつかの問題が生じる。
 まず第一は、数名の子どもが同時に立ち上がって、しかも譲らない子どもが出た場合である。
 この場合は、多くの論文で紹介されているとおり、「ずっと立っているのはみっともないですよ」
 「意地っ張りは醜いですよ」とやんわり言ったり、譲れた子をうんと褒めてやるのだ。例えば「◯
 ◯くんはやさしいなあ」という具合に。
 しかし、これはやる気がある子が多いと言うことだから、とてもよいことである。
 さて、次のような場合どうするのか?
 立つ子どもがいなくなってしまう。あるいは、特定の子どもばかりが立って音読している。
 実を言うと私にこれといった手だてがあったわけではない。
 この問題の答えが出たのは、98年夏の北海道上達セミナー(北見)の石黒修氏の講座を受け
 たときである。
 石黒氏は、上のような状態になったとき、次のように指示されたのだ。
───────────────────────────────────────
  まだ読んでいない人たちなさい。読んだ人から座りなさい。
───────────────────────────────────────
 この短い指示で目の前の霧が晴れた。
 子どもをやんわり追い込むこの指示。
 これだ!と心中叫んだ。
 この指示を言うときの留意点は二つ。
 立つ子どもがいなくなったら、間髪入れずに指示を繰り出すこと。
 子ども同士で相互に「だれ、読んでないのは?」という空気を作ってはいけない。
 また、教師自身が「どうして読まないんだ?」と思わないこと、指示が冷たくなる。
「大丈夫。きっと次は大丈夫」という気持ちで言ってやることだ。
 できれば、読み方を褒めてやるくらいの余裕がほしい。
 そして、立っていた全員が読み、座ったら「2巡目どうぞ」といって元の読み方に戻す。
 このとき、前回読めなかったのに、立って読めるようになった子には最高の賛辞を与えること。
 そうすると、いずれ自主的に「ほぼ」全員が立てるようになる。(あまり焦らないこと、立って読
 まないのにはそれなりの理由があるのだ。もしかすると、その子の歴史全体をかけて、その子
 は立たないのかもしれない。)
 この段階での大原則は、叱らない、責めないということである。
 ねばり強く、褒め続け、励まし続けるのだ。

 続いて、「指名なし発表」の段階に進む。
 しかし、その前に、内容論について触れる。
 なぜなら、発表するには、発表するための内容(意見)が必要だからである。
 その意見の持たせ方について述べる。

6,指名なし発表
 どういった内容を、どういった順番で発表させるのか。
 内容を持たせるための手だては、どうするのか。これが、本項での課題である。
 一言で言うなら、繰り返しになるが、「ねばり強く、褒め続け、励まし続ける」ことである。

  1年目から3年目までの私の失敗というのは、この段階にあった。
  指名無しでテンポよく、音読させるところまでは上手くいくのだが、その後が問題なのである。
  2つの問題が生じる。
───────────────────────────────────────
  発表する子どもがいない。
───────────────────────────────────────
  あるいは、
───────────────────────────────────────
   発表する子どもが限られる。
───────────────────────────────────────
  実は、この問題の根は一つである。
  要するに発表する力がないのである。
  発表する力の土台となるものは、自信である。
  子どもに自信をつけること。
  これは、簡単なようで難しい。
  だって、教育って言う言葉を、「自信をつけること」って言い換えても良いくらい、教育の軸とな
 る営為なんだから。
  しかし、きちんと石黒修氏が書いておられるのだ。
  それは、子どものノートに○を付けてやることだ。
  こんなふうに指示をする。
───────────────────────────────────────
  『大造じいさんとがん』、一言で言うとどんなお話ですか。ノートに書いて持っ
 てらっしゃい。
───────────────────────────────────────
  子どもは、自由に書いてくる。
 「執念のお話」「知恵比べの話」「人間とがんの友情のお話」・・・・・
  私は、さっと見て、三重丸をつける。
  小さなことには、こだわらないで「なるほど」とか「それは気づかなかった」とか 「良い書き方だ」
 とか褒めて返す。
  子どもは、にこにこして音読をして待っている。
  2分経ったところで、次のように指示する。
───────────────────────────────────────
  途中でも良いから、一度見せにきなさい。
───────────────────────────────────────
  もちろん、途中であっても少しでも書いてあれば、「この調子でいいよ」と丸をつ けてやる。
  そして、何も書いていない子どもには、「みんなの発表を聞きながら思いついたら、発表をして
 良いからね。お友達と同じ考えなら、写したって良いんだからね」と言う。
  全体に指示する。
───────────────────────────────────────
  ノートに書いてあることを発表してもらいます。ただ読めばいいのです。
  もしも、同じのが出てしまっても、今日は発表の練習だから言ってください。
  まだ、書いていない人も、友だちのを聞いて、「いいなあ」と思ったら、「私も、
 〜〜さんと同じで〜」と発表してください。
  そのうち、自分で言えるようになります。
  それでは、指名しません。
  どうぞ。
───────────────────────────────────────
  もちろん初めは混乱する。
  乱立したときは、「必ず全員言えますよ」「早く言えたら偉いのではありません」な どと助言する。
  あとは、よけいなことを言おうとする子どもがいるので、「読めばいいのです」と助言する。

  ところで、この段階では計画的なステップを教師が用意することが必要である。
  例えば、発問の難易度、教師のところに持ってこさせるか否か。
  答えの長さ。
  などを考慮する。
  当然初めは、一言で簡単に答えられるようなことを、教師のチェックを受けてから発表させる。
  その次は、チェック無しでいきなり発表させてみる。
  そして、その次は、少々長目の解になるような事柄を、チェック有りで。
  更に、次はチェック無しで。
  と言う具合に、螺旋階段状に、スモールステップ、変化のある繰り返しで指導していくのである。

7,討論を成立させるための条件 発問
  討論を成立させるには、討論を巻き起こすような発問が必要である。
  粗く言って、討論を成立させる発問の条件は二つある
───────────────────────────────────────
 @意見が複数に分かれる。
───────────────────────────────────────
  至極当たり前の話である。
  しかし、この条件を満たす発問はそうそうあるものではない。
  しかも、およそ半々に意見が分かれるか、あるいは少数派が最終的には正しいとされるような発
 問はそうはないであろう。
───────────────────────────────────────
 A考える根拠が資料に含まれている。
───────────────────────────────────────
  当てずっぽうでなければ答えられないような問題はだめである。
  根拠を持って、子どもが主張できるような材料がなければだめである。
  その材料には、内部情報(頭の中)と外部情報(資料・教材)があるわけだが、ここでは深入
 りしない。

8.討論授業の流れ
  最終的に、どんな子どもの姿を願うのか。
  私は、こう考えている。
  やがて、教師が口を挟まずとも、子どもたちだけで討論を進められるようになってほしい。
  そのためには、授業のパターンを子どもたちに定着させなければならない。
  いつ発表し、いつ質問し、いつ反論すればよいのかを子どもの頭の中に像として描かせるので
 ある。別言すれば、「番」を意識させるということである。

  @発問する。
  Aノートに赤の枠囲みで書かせる。
  B考えをノートに書かせる。
  C理由を書かせる。
  D一つ書けたら持ってこさせ○をつけてやる。できる限りたくさん書かせる。
  E全員書けたところで、意見分布を取る。
  F例えばA,Bという2択になればGに進む。
   ・3つ以上の解が子どもから提出された場合は、教師が強引に2つに絞るか、あるいは、「もっ
    とも正解の可能性が低いもの」一つを選択させ、討論させる。つまり消去法によって、二社択
    一にまで絞るのである。
  G「人数のすくない方の意見の人から、指名なしで理由を発表しなさい」と指示する。
   ・発表の仕方については、最初の段階では、私の場合簡単な話型を指導しておく。
    例えば、「私は〜と考えます。理由は○つあります。一つ目は〜」というようなものである。
    同じ意見の場合は、「私も〜」と言わせる。
   ・この時、他の子どもには、簡単にまとめてメモをさせるようにする。これも、一つの学習技能な
    ので別個に指導しなくてならない。
   ・また、簡単な質問は口を挟んでいいことにする。
  HA,B双方とも全員が意見を言い終わったら、「反論はありませんか」と聞く。
   ・反論についてもいくつかの話型を教える。
    「○○くんに反論です」
    (ここで名前を言われた子は起立)
    「さっき、〜と言いましたね。それは、違うと思います。理由は、○つあります。一つ目は〜」
  I反論された方は、応えるか、「ちょっと待って下さい」と言うか、降参するかである。
   ・降参するときは、「私は〜〜という意見でしたが、考えを変えます。何故かというと〜〜」と言
    うように指導しておく。
  J意見を変更した子どもには、「自分の意見が変わった。とってもすばらしいことだね。
   今日、学校に来た意味があるんだよ。みんなで勉強した意味があったんだよ。成長できたんだ。
   おめでとう」と言う。
   ・意見を変更することは恥ずかしいことじゃない、ということを教えるのだ。
   討論で成長すると言うことは、結局友達の意見を聞いて、自分に変化が起きるということなのであ
   る。
   そのことこそ、教師も子どもも大切にしなければならない。

   およそ、このように討論は進んでいく。
   最初は、指示をするわけだが、何度もやるうちに、自分たちで進められるようになる。
   なお、少しなれてきたら、Cの段階で誰と相談してもいいよ、と指示するとなかなか理由を書けな
  い子どもも書けるし、また子ども同士の交流も進む。


 
9,1時間目
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  教科書4ページを開いた人から起立。
────────────────────────────────────────
  2/3がたったのを確認して、指示する。
────────────────────────────────────────
  自分の席で1回、黒板の前で一回、合計2回読んだら座りなさい。
────────────────────────────────────────
  座った子どもには、何回も読むことを指示する。
  全員が座れたら、次のように指示する。
────────────────────────────────────────
  題名の下にまるを10個書きなさい。今、2回読めた人は2個、3個読めた人は
 3個塗りつぶします。
────────────────────────────────────────
  そして次のようにも話す。
 『家で読んだときも、もちろん塗ってもよいです』。
  向山式の追試である。
────────────────────────────────────────
 指名なしで一文読みをします。どうぞ。
────────────────────────────────────────
  これは前年度から、何度もやってきているのでお手の物である。
────────────────────────────────────────
  先生が読みます。赤鉛筆を持って、意味の分からない言葉に線を引きながら聞き
 なさい。
────────────────────────────────────────
  このあと言葉の意味調べを指示する。
  留意点は2点。
  ・何を見てもかまわないこと。
  ・ただし、そっくり写さないこと。
  ・終わったら音読をしているように指示する。

10,2時間目
  前回教科書につけた丸が塗りつぶされている子どもの数を確認する。
  14名中2名。この二人をうんと褒める。
────────────────────────────────────────
 「春」だけ、指名なしで読みます、どうぞ
────────────────────────────────────────
  文章が短くて全員が読めないので、その都度初めに戻って音読するように指示する。
  3巡目で全員が読めた。
  次に『「加代はそう信じている」とありますが、信じていることはどこにかかれてい ますか。四角
で囲みなさい』。
  これはすぐできた。すぐ前の「どこかに、〜来るんだ。」と全員が書いた。
  答えをすぐに確認した。
  次に問う。
────────────────────────────────────────
  では加代が、心で思っていることが直接書かれているところはどこですか。
  四角で囲みなさい。
────────────────────────────────────────
  子どもたちの書いた答えは、全員「どこかに〜来るんだ。」であった。
 『では、そこだという根拠は?』と尋ね、ランダムに指名する。
 「『どこかに』の上に  線があるから」
 『ダッシュというんだよ』
  さらに指名する。
 ・文末の言葉が他のところとは違うから。
 ・そのすぐ後に「そう信じているから」とあるので、その前が心の中で信じていること  だと思うから。
  というふたつがでてくる。
 『どれも立派な理由です』と言う。
────────────────────────────────────────
では、「かたぐるま」を開いて、指名なしで一文読みをしなさい。
────────────────────────────────────────
────────────────────────────────────────
  季節はいつですか、3分時間を上げますから調べなさい。何を見てもよいです。
────────────────────────────────────────
 『3分経ちました。私は、冬だと思います。理由は〜という形で発表しなさい』
  桜の若葉のうぶ毛、白もくれんの花が理由としてあげられる。
────────────────────────────────────────
 では加代が、心で思っていることが直接書かれているところはどこですか。
  四角で囲みなさい。
────────────────────────────────────────
  2カ所あったことを確認して、そのうち一つ目を言わせる。
  子どもたちからは、3種類の意見が出た。
  @いいなあ、〜だもの。
  A     〜てやろ。
  B     〜発見した。
────────────────────────────────────────
 それぞれ自分の意見の根拠をノートに書いて持っていらっしゃい
────────────────────────────────────────
  目を通して、どのような根拠であっても丸をすることにする。      

11,3時間目
  意見分布を取る。
 @→5人
 A→5人
 B→4人
────────────────────────────────────────
  前の時間に書いた理由を発表してもらいます。数が少ないところからどうぞ
────────────────────────────────────────
  よどみなくどんどん立って発表していく。
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これは絶対違うという意見を一つだけノートに書きなさい。
そして、その意見をつぶしなさい。
────────────────────────────────────────
  Bが違うという意見が続出した。
理由には、もしも、そこまで心の中のつぶやきなら、次の行のダッシュの意味がな
 いと言うもの、「発見した」という言葉が加代らしくないというものがあった。
そのあと、討論を20分ほど続け、形式段落が変わっていると言うことで、Aはつぶ れた。
  次に二つ目の箇所を確認したが、討論の後なので全員が、「大人が〜ないでしょ」ま でを指摘した。