最後の金庫破り
第1幕
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泥棒1→親分に一番信頼されている。4人の中で一番まじめ。まじめすぎるので、
逆に常識から外れている。
泥棒2→何も考えていない。うまいもんさえ食べられればいい。一番年下。
泥棒3→車やアクセサリーに興味あり。自分をかっこよく見せることに命を懸け
る。
泥棒4→さめている。冷静。あまり感情を表に出さない。人を信じていな
い。
主人公→まじめ、物静か。病気の母親のために仕方なく金庫破りをしている。
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時代は、今から50年ほど前。戦争が終わってすぐという感じ。だれも、ろくに食べられない時代。黒っぽい壁、ところどころかびが生えたように緑色になっている地下室。ぼんやりと中央だけが、裸電球で照らされている。ここは、泥棒たちのアジト。中央にはテーブル。テーブルの上には札束。それを囲むように泥棒たちが座っている。
泥棒1「これで俺たちは大金持ちだ」
泥棒2「今まで食えなかった物を食うぞお。カツ丼、刺身、すし、ビフテキ、コロッケ、餃子、ラーメン、焼き肉」
泥棒3「それが、1週間のメニューかい?」
泥棒2「いーや、1日さ」
泥棒4「まあ、お前なら腹もこわさないだろう。でも、それをくっちまったあとはどうするんだい?」
泥棒2「決まっているじゃないか。そのあとこそは、」
泥棒134「そのあとこそは?」
泥棒2「もう1回、食うのさ。カツ丼、刺身、すし、ビフテキ、コロッケ、餃子、ラーメン、焼き肉、カツ丼、刺身、すし、ビフテキ、コロッケ、餃子、ラーメン、焼き 肉」
泥棒134「一生食ってろ!」
泥棒2「じゃあ、お前は何に使うんだい」(泥棒3を指さしながら)
泥棒3「おれは、もちろんスポーツカーを買うのさ」
泥棒2「へえ!知らなかった。あんなものうまいのかい!?」
泥棒3「食うんじゃあねえ!乗るんだ!」
泥棒2「じゃあ、あんたは、何に使うんだい?」(泥棒4を指さしながら)
泥棒4「おれは、このピストルさ。おれはこれしか信じちゃいねえ。先に言っとくが、これは食えねえぞ」
泥棒2「わっかってるさ、それは飲むもんだ」
泥棒4「お前は化け物か!!」
泥棒1「何をくだらねえこと言ってるんだ。もっとまともな使い道はねえのか。」
泥棒3「じゃあ、お前はどうするんだい」
泥棒1「決まってるじゃねえか。郵便貯金よお。」
3人ずっこける。そこに主人公登場。全員立ち上がって、迎える。
泥棒1「あ、兄貴。昨日は上手くいきやしたね。」
主人公「ああ」
泥棒3「さすがは兄貴ですね。見事な金庫破りでした。何せ、金庫に傷一つ付けねえんだから。あれは、芸術ですね」
主人公「ああ」
泥棒4「どうしたんですか。なにか、困ったことでも」
主人公「いや」
泥棒2「どうしちまったんだよ。いつものかっこいい兄貴に戻ってくれよう」
主人公はステージ前方にでてきて、遠い目をする。
暗転。
第2幕
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医者→優秀であるが、医者としての経験が浅い。
看護婦→ベテラン。心の底から人を気遣う優しさがあり、それが表ににじみ出てい
るような人。
息子→主人公
母→死期を悟っている。最後に、息子に改心してほしいと心から願っている。
隣の病人→ずいぶんとあれた生活をしていて、それで体をこわして入院、しかし、
主人公の母によって、いやされ自分を大切にして生きようとしている。
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とある病院の一室。中央にベット。横になっている老婆。それを囲むようにして、若い医者、中年の看護婦、主人公。隣には、もう一つのベット。顔色の悪い男が横になっている。照明は暗め。白っぽい壁。皆、うなだれるようにして立つ。空気が重たい。
医者「息子さん、ちょっとこちらへ」
息子の肩を抱き、部屋の隅へ。
医者「大変残念なのですが、お母さんはもうすぐ息を引き取られるでしょう。、もし、伝えたいことがあれば、今のうちにどうぞ」
息子は、引きずるような足取りでベットのそばへ。しかし、何を言っていいか分からない。不意に母から声をかけられる。
母「ヒロシや。私は、自分のことがよく分かっている。何にも怖いこともなければ、心配なこともない。でもね、あたしは、おまえのことだけが心残りなんだよ。……ヒロシ や、お前、母さんに隠し事はないかい」
息子「何を言ってるんだい、急に。そんなものあるわけ無いじゃないか」
母「本当かい。もう、この母は死んでしまうんだよ。どうか、最後までお前はいい子で居ておくれ。じゃあ、母さんの入院費は、どうやって払ってるんだい?」
息子「それは親切な人に借りてるんだ」
母「息子や、最後までいい子でいておくれ」
息子「みなさん、すみませんが、ちょっと席を外して下さい」
部屋から出ていく、医者と看護婦。
息子「母さん、僕は金庫破りをしたんだ。そのお金で母さんの入院費を」
母「そうかい。やっぱりお前は母さん思いのいい子だね。でも、金庫破りはもうやめておくれ。母さんの最後のお願いだよ」
息子「分かったよ、母さん。母さん?母さん!?母さーん!!!」
あわてて病室に入って来る、医者と看護婦。聴診器を当てて、調べる医者。
医者「残念ですが……」
息子「かあさーん!!!」
看護婦「(ハンカチをわたしながら)さあ、涙を拭いて、涙を拭いたら、また思う存分泣くのよ。こんな悲しいことなんて、もう一生無いんだから」
ベットから降りてきて、近づく隣の男。
隣の患者「こんないい人が先にいっちまって、俺みたいな、ぐーたらな人間が生き残るなんて。いつも、この人は俺に優しい言葉をかけてくれた。ありがとう、お礼だよ」
といって、布団の上に花をそっと置く。
暗転
第3幕
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同僚1(山本)→温かく、主人公をまじめな若者だと思っている。穏やかな性
格、言葉は少ないが、主人公の良き理解者。
同僚2(木村)→きまじめ。素直な性格で、いやな物はいや。口より先に手が
出るストレートな人間。
刑事→執念深い、蛇のような性格。犯人を何年も追い続けて、やがては逮捕し
てしまうタイプの刑事。目つきが悪い。
同僚1の妻→主婦。娘の子育てが一番の関心事。娘のためなら命を捨てる。
同僚の娘(よし子)→5歳。遊びたいさかり。純真無垢、かわいい女の子。
主人公(タカダヒロシ)
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ステージ左手から、板金工場の作業場、真ん中に金庫、工場の入り口、右手に電信柱、 その陰に身をひそめる刑事。主人公は、作業場でせっせと働く。
同僚1・2 上手から登場
同僚2「今日も一日が始まりますね」
同僚1「ああ。しかし、このところふけいきでまっちまうなあ」
同僚2「ええ、でも仕事があるだけ、ましですね」
同僚1「ああ」
刑事「ちょっといいかね」
同僚2「なんだい、あんた」
刑事「あたしは、こういうもんだ」
警察手帳を見せる。
同僚2「デカかよ。なんだよ、俺たちは何にもしてねーぞ」
刑事「いや、お前たちじゃない。中にいる、タカダヒロシのことだ」
同僚2「ヒロシがどうしたい?」
刑事「実は3年前、連続銀行強盗があってね。目撃者の証言によると、タカダヒロシと、そっくりのやつが、一味の中にいたというんだ」
同僚2「だからって。ヒロシはいいやつだ。3年前おっかさんをなくしてからというもの死にものぐるいでまじめに働いてきたんだ。それを何だ!銀行強盗とは」
刑事「それがまた問題でね。3年前から、その銀行強盗はすっぱりと事件を起こさなくなっちまった。母親の死をきっかけに足を洗ったと考えると実に上手く説明が付くんだがね」
同僚2「このやろー!!!」
殴りかかる同僚2
同僚1「やめろ木村。」
刑事「ほう、そっちの兄さんは少しは頭が回るらしいな。お前らみたいな虫けらを牢屋に入れることぐらい簡単なことなんだぜ」
同僚1「刑事さん、たしかに私らは虫けらかもしれませんがね、もしもこれでヒロシが犯人じゃなかったら、あんた無事でいられるとは思いなさんな」
刑事「ほうおどしかい?それがあんたらのやりかたかい?けっ、虫けらに何ができる」
同僚1「せいぜい、気をつけて下さいね」
刑事「いつか証拠を握って、虫けらが大切にしているヒロシが金庫破りだということを証明してやるからな」
工場の中に入る2人。
主人公「おはようございます。すみません。外にへんな刑事が居たでしょう。3年前から俺を追い回している刑事なんです」
同僚2「ああ聞いたよ。気にするな。お前は俺たちの仲間だ。」
同僚1の妻と娘、お弁当を届けに工場の中に入ってくる。
妻「あなた!」
同僚1「おう」
娘「おとうちゃまあ」
同僚1「お、よしこ、その辺で遊んでおいで。」
妻「みなさんのじゃましちゃだめよ」
娘「じゃまなんかしないもーん」
同僚1「いつもすまないなあ」
妻「何を言っているの」
娘、遊んでいるうちに金庫に入る。
同僚1「いつか楽な暮らしをさせてやるからな」
妻「いいのよ、そんなこと・・・・・さあ、よしこ帰るわよ。よしこ、どこに行ったの」
娘「ママ!」
探すような素振り、やがて金庫のそばに行く。
妻「よしこ。ここなのあなた」
娘「ママ、助けてー!ここ暗いよ、こわいよ」
妻「心配しないで、今出してあげるわ。あなた早く金庫の鍵を」
同僚1「その金庫は、鍵じゃ、あかないんだ」
妻「どうして」
同僚1「その金庫は、壊れているんだ」
妻「それじゃあ金庫屋にすぐに連絡を取ってちょうだい」
同僚1「隣町の金庫屋が来るには、1時間はかかるだろう。でも、金庫の中の空気は10分ももたない」
妻「じゃあ、よしこはどうなってしなうの。だれか助けて。私のよしこ。誰か何とかしてよ!!!よしこ、よしこ!!」
泣き崩れ、金庫にすがる。
同僚2「そうだ外にいるデカを呼ぼう」
同僚1「やめろ、あいつをここに呼ぶわけにはいかない」
主人公「木村さん、よんできて下さい」
刑事を引っ張りながら
同僚2「女の子が金庫にはいっちまったんだ。あんた何とかなんねえか」
刑事「悪いが金庫を破ったやつを捕まえるのが仕事で、あけるのは仕事じゃないんだ。何だったら、そこにいる天才金庫破りに頼んでみたらどうだ。まあ、俺の前ではでき ないだろうがな。はっ、はははは」
刑事を殴る同僚2。倒れる刑事。がっくりとひざを折る同僚1。
妻「もう入ってから5分たつわ。だれか、なんとかしてよ。この金庫をあけるだけでいいのよ。助けて、私のかわいいよし子を助けて!!!」
主人公、妻の肩にそっと手をおいて、
主人公「やってみましょう」
金庫の前からよける同僚の妻。全員、主人公を注目する。しばらく金庫をいじっているうちに、金庫がカチャっと開き、飛び出す娘、母に抱きつく。
妻「よしこ!ひろしさん有り難う、有り難う」
ひざにすがって泣く妻。主人公は、黙って、刑事のそばに行きひざまづき、両手を刑事の前に出す。
主人公「さあ、今のが、あんたがほしがっていた証拠だ。おれを捕まえるといい」
刑事、コートをほろって立ち上がる。
刑事「俺はお前なんて知らない。初めて見る顔だ。俺は、今日、たまたま工場の前を通りかかっただけだ。それなのに急にここへつれてこられて殴られた。ここはおかしな工場だな」
背を向けて去ろうとする。
同僚1「刑事さん、あんた、ヒロシを許してくれるのかい」
背を向けたまま。
刑事「ここには、おれの探していた悪党はいなかったようだ」
暗転
O・ヘンリ短編集(一)「よみがえった改心」(新潮文庫)が原作であり、シナリオ作成にあたっては、蒲郡ろくまるサークル著『劇指導に活かせる77のポイント』(明治図書)を参考にした。