劇指導法(シナリオづくりから本番まで)



向山洋一氏から学んだ劇指導法(オーディションによる劇指導の追試)


1,シナリオの条件
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 全員をステージにあげる。
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  私は、24名以上のクラスを担任したことがない。だから、大人数のクラスで劇を する場合、
 その配役をどうするのかよく分からない。しかし、何人であっても、全員 をステージに上げたい
 と思う。
  十数名しか、子どもがいないクラスで、全員を出演させないで、証明や大道具などのいわゆ
 る裏方をさせるようなやり方を、私は理解できない。
  親が観に来るのだ。
  もちろん、親が喜ぶから、出演させるのではない。
  しかし、立派に演じきって、家 庭で褒められる。その教育効果を考えれば、絶対に全員をス
 テージに上げるべきだ。
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 キャラクターを光らせよ
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  全員をステージにあげると、当然一人一人のセリフは、短くなる。
  特に、端役のセリフは一行しかないなんてこともある。
  そういうセリフこそ、全身全霊を書けて一晩でも、二晩でも頭をひねった方がいい。
  いわゆる殺し文句をひねり出すのだ。
  そのセリフ、一発で観客の心を射抜くようなセリフ、そんなのを考えたい。
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 キャラクターを立たせよ
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  どんなキャラクターなのか、露骨にわかりやすい方がいい。
  子どもが役作りをするときに、努力する方向がはっきりしている方がよいからだ。
  そして、何より次のことは絶対に実行した方がよい。
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 少なくとも3人に台本を読んでもらう
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  まず、自分のミスは自分で見つけられないと、思った方がよい。
  不自然なセリフ回し、設定の矛盾など……。
  また、すばらしいセリフのヒントをもらえるときもある。
  後で紹介する台本の最後のセリフは、先輩同僚のアイデアである。

2,オーディションの告知
  私は、まず台本を朗読する。
  この朗読は、よほど練習をした方がよい。
  感動的なお話なら、子どもをその朗読で泣かせるくらいの気合いがほしい。
  これから、何時間も練習することになるその台本の内容に、惚れさせなければなら ないの
 だ。
  子ども全員をぐっと作品の中に引きずり込まなければならないのだ。
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  次にオーディションの予告をする。
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 「月曜日、第1次オーディションをします。なりたいなあと思う役を第1希望か
  ら第3希望まで決めてきなさい。
  その役になりきってみんなの前で演技してもらいます。
  課題は、教室の前の戸から入ってきて、真ん中まで歩いてきて「こんにちは」
  と言うだけです。
  5時間目の内に受かれば、第2次オーディションに進めます。
  もちろん、何度受けてもかまいません。
  基準は、先生がいいと思うかどうかです。
  先生がいいと思うのは、まず声が出ていること、その役になりきっていること
  です。」

  基準を明確にしておく。
  そうでなければ、後から不満が出る(と思う)。
  この時のこつは、あくまで「教師の主観による基準」であるという点だ。
  この点が、子どもに認められなければ、教師は指導できない。
  ここを毅然とした態度で、はっきりさせておかなければならないのだ。

3,オーディション
  役の希望調査をした後、1回目は順番に一通り全員の評価をする。
  こんな調子だ。

  楽しい雰囲気の中でやる。ただし、時には真剣に。そして、時には教師がやってみせる。テン
 ポよくやる。というより、チョーハイテンポでやる。モタモタしてはいけないのだ。
  自分が向山洋一氏になったつもりでやる。
 『ただ、歩いているだけじゃないか』
 『それは、お金を落としたときの歩き方だ。違う』
 『それは、腹が減っている歩き方だ』
 『泥棒1と泥棒2はどこがどう違うの?それが分からなきゃ合格できない』
 『それは、舞ちゃんのまねじゃないか。かずちゃんにはかずちゃんにしかできない泥棒があるんじ
  ゃないか』
 『何歳の人なの?』
 『家族はいるの?』
 『何の病気で、何年入院しているつもりでやってるの?』
 『朝、何食ってきた人なんだ?』
 『上に浮遊霊でも見えてんのか?上ばっかり見て』

  一通り評価する。
  もちろん全員、不合格。
 『後は、受けたいときに受けていい。ただしチャイムが鳴るまでだぞ』という。
  子どもは、他の教室で練習してもいいか、と聞く。
  もちろん、いいと応える。
  その時間内に、全員が合格した。
  そこで、第2次オーディションの予告をする。

 「第2次オーディションをあさってやります。
  台本から、1カ所どこでもいいからセリフを選んで演技してもらう。
  あさっての5時間目がタイムリミット。
  基準は先生が気に入るかどうかです。先生が気に入るのは、その場面にあった演技をしている
  場合です。
  もしも、一つの役に何人も合格者が出たら、そのときはじゃんけんにします。」

  第2次オーディションは、かなり厳しい。
  指の先から、目の演技まで見る。
  何度も不合格になる。そのうち子どもは真剣になり、隠れた力を発揮するようになる。
  第2次オーディションでは、不合格の時も基本的に褒める。一つでも工夫して、前回と違うところ
 があったら、最大限褒める。
  そして、「98点」とか「あと0、1点」とか言う。子どもは、またやる気を出して挑戦してくる。
  ある子どもが、日記に書いてきた。
 「オーディションは厳しくて泣きそうになったけど、役をつくるのは楽しいし、合格になったときは、す
  ごくうれしい」と。

4,本番まで
  ほとんど、劇指導はオーディションで終わったようなものだ。少々語弊があるが、あとは子どもが
 勝手にやる。
  この後は、本読み、舞台稽古となる。
  舞台稽古では、立ち位置は教師が指示する。てきぱきと指示する。
  なお、1幕が舞台に上がっているときは、2幕、3幕の子どもたちは体育館の後ろで練習させておく。
マンネリにならないように、「毎回、新しい工夫を一つは入れよう」と指示する。
そして、それを取り上げてうんと褒めてやる。
 『先生の台本より、いいセリフが思いつくなら、台本をかえてあげよう』と挑発したりする。
  私は、今回2カ所だけ、子どものセリフを取り入れた。

5,総練習
  この機会をきちんと活用した方がいい。
  前にも書いたが、自分が指導した劇の問題点は意外と見えないのだ。
  他人の目は、大いに活用すべきだ。
 「間を取らせた方がいい」「BGMを活用すべきだ」というご意見をいただき、私は劇が大変よくなった経
 験を持つ。同僚の先生方に、感謝、感謝である。