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車椅子から町づくりへ(総合的な学習試案)

1、指示・発問を中心にした指導計画

一・二時間目
 ▽特別養護老人ホーム園長氏に車椅子の操作の指導を受ける。
 ▽感想を書かせ指名無し発表させる。
 ▽車椅子を使って、今後どんな勉強をしたいですか。

三時間目
 ▽車椅子での町探検の視点と探検コースを班毎に決めなさい。(四班各三から四名)

四・五時間目
 ▽車椅子での町探検。(各グループに一人ずつ指導者がついた)

六・七・八時間目
 ▽町探検で感じたことを、ポスター、新聞にまとめよう。

九・十時間目
 ▽障害を持った人たちにとって、都合が悪いという場所をそのままにしておいて良いのだろうか。
 ▽改善策を考えよう。
 ▽誰に聞いてもらえばいいのだろう。
 ▽町長さんを呼んで話を聞いてもらおう。

十一時間目
 ▽発表練習。

一二・一三時間目
 ▽助役さんに改善策を聞いていただこう。(町長急病のため助役が代行した)
 ▽設備や施設が整えば、誰もが住みやすい町と言えるのだろうか。


2、指導の実際@(車椅子で街探検)
 事前に以下のことを指導しておく。
 ・気づいたこと、困ったことをメモする。(メモ用にカードを一人ずつ持たせる)
 ・カメラで特に重要な場所や施設は、写真を撮っておく。(班に一台ずつカメラを持たせる)
 ・ほぼ同じ時間、全員が車椅子に乗ること。

3、指導の実際A(助役さんに改善策を聞いてい ただこう)
 助役さんにお入り頂く。簡単に子どもたちに教師から紹介する。
 『さっそく、一班から発表してもらおう』と教師は促す。

一班の主な発表内容
【車椅子探検で感じたことと・改善案】
 ・普段は気づかなかったが、ちょっとした坂を上るだけでもきつい。
 ・坂をゆるやかにしてほしい。手すりを設置する。
 ・コンビニエンスストアの通路が狭い、通路に段ボールなどがあると通れなくなる
 ・通路を広くし、通路には何も置かない方がよい。
 ・コンビニエンスストアの冷蔵庫の扉が開けられない。
 ・引き戸にすれば楽だ。
 ・公園は、もし車椅子の子どもがいたら、段差や砂道があって、遊べない。
 ・車椅子の人が遊べるようにスロープを付けたり道の一部を舗装すればよい

 発表が終わると、すぐに聞いていた方の子どもたちは、指名無しで感想や意見を述べていく。
 そうした学習のルールが私のクラスにはある。
 発表の内容そのものへの発表を期待したが、子どもたちからは、発表の仕方に関する意見が多かった。
 続いて、助役さんにお話しいただく。
「一班のみなさんは、よくここまで詳しく調べてくれましたね。」と子どもたちへのねぎらいの言葉をかけてくださった後、すべての改善策に関するご講評をくださった。

【助役さんからの講評】
▼道の勾配については、元々あった土地の特徴によって道を造っているので道を削るというようなことについては難しい。
▼コンビニエンスストアのことについては、商工会の人と会うときにお話ししてみる。
▼公園については、景観(見た目)のこともあるので、今のところ舗装にするということは難しい。

 このように、グループ発表(四グループ)→感想発表→講評という形態で授業は進んでいった。 そして、四つのグループの発表が終わった時点で、私は子どもに聞いた。
┌──────────────────────────────────────────┐
│ ところで、設備や施設が整えば、誰もが住みやすい町と言えるのだろうか(※1)。           │
└──────────────────────────────────────────┘
 プリントの隅に書きなさい。

「言える」とした子が二名、「言えない」とした子が十二名であった。子どもたちに意見交流をさせたいところであったが、時間がなかった。
 資料を配付する。
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くるまいすの人
      熊坂 佳子(5歳)
 くるまいすの人がいました。
 大さかえきのかいだんのところで、かなしそうなかおで、かいだんのしたをみていました。
 ひとりでおりられないから、こまっているんだな、とおもいました。
 おとなの人がたくさんとおっているのに、みんなしらんかおです。
 佳子はたすけてあげたかったけど、からだがちいさいし、ちからもないから、たすけてあげられない。
「どうしよう。」とおもったとき、パパがくるまいすの人のところへいって、「よかったら、もちましょうか。」といいました。
 もうひとりのおにいさんにもたのんでみんなで力をあわせて、くるまいすの人をひがしぐちまではこびました。
 くるまいすの人は、よくおはなしできなかったけど、ほんとうにうれしそうでした。
 佳子はくるまいすの人に「きをつけてね。」っていいました。
 パパが「みんなで力を合わせて、たすけあったら、きもちがいいね。」っていいました。
 こまっている人をたすけてくれて、
 パパありがとう、佳子もうれしかった。
 (※2)
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 教師が読み聞かせ、最後に助役さんから、「これからも人を助ける気持ちを持ち続けてください。また、ぜひこれを提案書にまとめて役場に提出してください」というお話をいただき授業を終わる。
 実は最後に、「苫前町を住みよい町にするのは、誰の仕事ですか」という発問を用意していたが、時間が無く扱えなかった。

4、子どもの感想
 紙幅の都合で三つだけ紹介する。
「助役さんは私たちの話を真剣に聞いてくれてうれしかった。しかも、それを役場に持ち帰って議論してくれるというのだから驚きだ。これを機会に苫前町が住みやすくなるといいなあ、と思った」「助役さんの話を聞いて、自分たちの考えていることができるかもしれないと思ってうれしかった。でも、色々なことをするにはお金もかかるのでまずは困っている人がいたら助けたいです」。
「車椅子の勉強をして、色々困ったことがありました。それを発表するのにもとても苦労しました。でも、将来この苫前がいい街になればいいなあーと思います。全部は変えられないとは思うけれど、今日発表してみて、とても楽しく助役さんにぶつけられたので良かったです」
(※1)北海道立教育研究所での研修として参観した西田幸二氏の授業「人に優しい街 発寒」を参考にした。
(※2)東京子ども教育センター教室編『心を育てる教室での読み聞かせ 子どもの作文珠玉集2 人に役立つ心の芽ばえ』(明治図書) (北海道苫前町立苫前小学校教諭)